廊下ですと座る場所もないので、教室の隅っこで授業が終わるのを待っていたのですが、私の前に座っていたのが全盲の男性でした。
点字の本を指でたどりながら先生の言葉に懸命に耳を傾けています。
私が修士課程で授業に必死に出席していた時も、よく教室で一緒になる盲目の女の子がいました。彼女はいつも一番前の席に座り、ものすごい勢いで点字でノートを取っていました。
車いすの学生も沢山います。
口の悪い留学生が「テヘラン大学は、病院みたいだ」と言うくらいに、身体障害者が目につくのです。
私が先日、レターを出してもらうために大学事務局へ通っていた時も、待合室で母親に連れられた盲目の女の子がいました。お母さんが待合室にいた我々や秘書に訴えていたところによると、彼女はテヘラン市内の別な大学へ入学が許可されたのだけど、そこは身体障害者に対して全く配慮がなされていないのでテヘラン大学への転学を許可して欲しいということでした。
イランは8年に及ぶイラクとの戦争の中で多くの戦死者や戦傷者を出しました。
イラン政府は戦地へ赴く男性たちに、働き手を失うかもしれない彼らの家族に対する社会保障を約束しました。
具体的には、戦死者の埋葬と墓に対して国が費用を負担すること、残された家族に対して官公庁や国営企業への就職の優先権を与えること、国立大学への優先的な入学などです。
イラン国内の国立大学は、「シャヒード(殉教者)枠」として定員の何割かをシャヒードの家族と戦傷者に優先的に入学させることが義務づけられました。
テヘラン大学はその枠が最も多く割り当てられていて、最も多かった時期で定員の三割くらいがシャヒード枠だったそうです。
このシャヒード枠の是非はともかく、テヘラン大学では、この枠が最も多く割り当てられていたことにより、シャヒードの家族だけでなく、戦地から戻ってきた戦傷者も多く学んでいます。
そのため、車いすの人でも移動しやすいようにエレベーターが設置されていたり、段差部分にスロープも備えてあったり、また図書館の点字の蔵書も他大学よりも充実しているなど、設備面での改良が進んでいるのだそうです。また、職員もそういった学生に慣れていますから勉強しやすい環境でしょう。
このため、シャヒード枠が廃止された今でも身体障害者が学びやすい大学として、テヘラン大学への入学・転学を希望する人が多いのです。
家族にシャヒードがいると、その両親ときょうだいあるいは子供は、大学入学試験の点数に関係なく大学に入学できたのです。そして入学した後も、成績が悪くとも落第することなく卒業することができていたそうです。
学歴社会であるイランにおいてこれは非常に魅力的な制度だったようです。
もちろん入学後真面目に勉強する人も多かったはずですが、勉強しなくとも卒業できるのですから勉強しない人、あるいは入学したもの勉強についていけない人も多かったと聞いています。そのため、テヘラン大学の学問レベルが下がったのはシャヒード枠のせいだと言う教授も多くいます。
考えてみたら、大学進学希望者への奨学金ではなく、入学そのものを優遇するというのはおかしな制度です。いかに「学士」という名前だけが大切なのかが分かろうというものです。
前回の大統領選挙でも、ある候補者は、大学入学試験を廃止して、進学希望者全てを入学させることを公約としていましたが、これもひどい話しです。この候補者はこの公約により支持率を上げたというのですから驚きです。
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